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ナトリウム冷却高速増殖炉の安全性・信頼性

小笠原英雄

(エネルギー問題に発言する会会員)

(月刊エネルギーVol.38,No.3(2006)に掲載されたもの)

 国の原子力委員会は、約1年にわたる「見直し論」を含む再検討を経て、平成1611月に現行の使用済核燃料の再処理政策を維持する基本方針を決めました。さらに昨年128日には、高速増殖炉開発に関する現原子力開発利用長期計画の方針を継承し、原型炉「もんじゅ」の早期の改造工事着手と運転再開を目指す方針を打ち出しました。これはエネルギー資源の乏しい我が国として、プルトニウム利用の方向を再確認したものです。

 「もんじゅ」については平成15127日の名古屋高裁金沢支部の差戻第二審の判決で国の安全審査の結果が否定されましたが、平成16122日の最高裁第一法廷で、国側の上告が受理され、317日に口頭弁論が開かれることになりました。高速炉の安全性は技術開発の対象として裁判所の判断を必要とするほどリスクの大きなのもでしょうか、かつて長年「もんじゅ」を含め開発事業のお手伝いをしてきた一技術者として技術ベースのお話をして見たいと思います。

 

1. ナトリウム冷却高速炉

ナトリウム冷却高速炉はウラン・プルトニウム型の増殖炉の本命として長年にわたって世界の主要な原子力開発国で開発が進められてきました。財政負担などの理由から米仏独英などの、かつてリーダーシップをとっていた国における大型開発計画が90年代に次々に中止に追い込まれて今日に至っておりますが、米仏にしても開発を全く止めてしまったわけではありません。ナトリウム冷却炉開発の歴史は46年初臨界で52年まで運転された米国の実験炉Clementine25kWt)以来、世界で20基に近い実験炉、原型炉、実証炉が運転されており、技術上の特徴はほぼ掌握されていると見られます。(表1、参照)

 米国は63年初臨界で72年まで運転されたデトロイト・エジソン社のEnrico. Fermi炉(61Mwe)及び同じく63年の初臨界から94年まで照射用発電実験炉として運転したEBR-II20Mwe)などの運転実績により関連技術分野の総てに豊富な経験を蓄積しているものとみられます。また、最近では米、英、仏、日などの先進国が参加した第IV世代原子炉開発の国際プログラムが米国主導で立ち上げられており、その中で高速炉も開発対象として選択されています。現在ロシアでは原型炉BN-600600Mwe)が運転されており、日本、中国、インド、韓国に進行中の開発計画が存在しています。

 フランスは982月に実証炉Super Phenix1240Mwe)発電所の放棄を決定しましたが、主として将来の電力需要予測と財政上の行政判断によるものと言われています。それにしても大型炉の運転実績として数年の運転経験は蓄積されたことになります。最近伝わってきたニュースでは、フランスは現在の軽水炉のリプレースとしては2020年頃からEPRの採用を、その後は2040年頃からFBRの導入を考慮しているようです。

 

2. ナトリウム冷却炉のメリット

 2.1核燃料の増殖機能

 軽水炉の場合は、核分裂によって発生した高速の中性子は水素の原子核(ほぼ中性子と質量が等しい)と衝突して減速し、熱中性子と呼ばれる遅い中性子になり、ウラン235やプルトニウム239といった核燃料物質との核分裂反応が大変起こり易くなっています。しかし、ナトリウム冷却炉では炉心領域に中性子の減速効果の大きな物質(水など)を含むものが存在しないので、核分裂で発生した高速の中性子はあまり減速しないで核燃料と反応することになります。この場合は中性子がウラン235やプルトニウム239といった核燃料物質と核分裂反応を起こす割合とウラン238に吸収されて新たな核燃料であるプルトニウム239に転換する割合が同じ程度になるため、核燃料体を構成するこれらの物質の組成を適切に組み合わせることによって、核分裂反応によって失われる核燃料の数よりも新しくできる核燃料の数の方が多くなる、すなわち増殖機能を持つようにすることができます。

 2.2 高出力密度は技術開発の方向

 ナトリウム冷却炉は燃料ペレットの直径が67ミリ程度の極細の燃料棒(軽水炉の場合は10ミリ程度)を六格子状に稠密に配列した炉心で構成されており、燃料棒間のわずかな隙間を液体ナトリウムが流れて燃料棒を冷却する構造になっています。従って炉心単位体積あたりの出力、即ち出力密度が大きく、最新型の軽水炉で100kW/l程度であるところが300500Kw/lと大きな数値になっています。即ち、小さな炉心で大きな出力を出せるので、原子炉の性能として高性能であるわけです。このようなことが可能になるのは、液体金属ナトリウムが熱を良く伝える流体であるからに他なりません。200℃の水の熱伝導率は0.568kcal/m.h.℃ですが300℃の液体ナトリウムの熱伝導率は66.0kcal/m.h.℃と二桁の差があります。また後にも触れますが、純度の高い液体ナトリウムは金属に対する腐食性がみられず、狭い隙間を腐食生成物で塞ぐような懸念がありません。

 

3.      ナトリウム冷却炉の安全性(1)

世界中での約60年にわたる運転経験を通して、軽水炉に比べても安全性が特に問題に

なるような事故は発生していません。日本においては実験炉常陽が77年の初臨界以来極めて順調な運転実績を誇っており、140MWtへの出力増改造を経て昨年運転復帰しています。ナトリウムを用いるためのハード上及びソフト(特に炉心特性)上の対応は旧動燃事業団の大洗工学センターやメーカーなどにおいて、基礎研究の段階から実証試験まで実施されており、軽水炉発電と比べて安全性で遜色ないものです。

 「もんじゅ」の安全設計を849月の動燃技報(No.51)で見てみますと、基本的には軽水炉同様に「原子炉等規制法」、「電気事業法」に依っており、「原子炉立地審査指針」、「安全設計審査指針」、「安全評価審査指針」などの指針類にも準拠して設計、評価されています。ナトリウムを用いるなどの高速炉に特徴的な部分については原子力安全委員会の「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」に従っています。「もんじゅ」の原子炉設置許可申請書の「添付書類十、原子炉の操作上の過失、機械又は装置の故障、地震、火災等があった場合に発生すると想定される原子炉の事故の種類,程度,影響に関する説明書」に、事故時の安全性が十分な余裕をもって達成されることが説明されています。

 高速炉は炉心出力密度が軽水炉より大きいのですが、原子炉はドップラー効果及び燃料膨張に基づく負の反応度係数などの固有の安全性を持っており、安定した運転ができるようになっています。使用材料の吟味、安全上重要な系統・機器に対する地震などの自然現象の配慮、運転中の試験・検査、原子炉保護上必要な計装、原子炉保護系設備の多重性、独立性、フェイルセイフの要求、冷却材圧力バウンダリー及び格納容器バウンダリーへの要求など軽水炉発電所に対する要求事項を満たしています。

 ナトリウムを内包しているための対応としては、ナトリウム液面上を純度の高い不活性ガス雰囲気としナトリウムが空気と接触しないような構造にすること、凍結により安全機能が損なわれないようにすること、蒸気発生器についてはナトリウムー水反応の影響を抑制できる設計とすることなどの対策をとっています。勿論放射能にたいする多重障壁のバウンダリー構築、深層防護の設計思想に貫かれています。

 

4. ナトリウム冷却炉の事故例(2)

 過去の事故例を調べても864月に旧ソ連で起きたチェルノブイリ事故のような災害をもたらした事故は勿論起こってはいません。めぼしい燃料溶融事故としては、55年にEBR-I0.2Mwe)で燃料ピンの湾曲を原因とする反応度事故(炉心の4050%が溶融)と66年にフェルミ炉(上掲)で発生した局所燃料溶融トラブル(炉内の流路に張り付けた耐熱板が剥がれて燃料の流路を閉塞)が記録されていますが、「もんじゅ」を含めて最近の設計ではこれらの教訓を反映して十分な対策がとられています。蒸気発生器ではナトリウムと水が数ミリメートル厚の鋼管壁を介して接触しているため初期の段階では種々のトラブルを経験しています。フェルミ炉での伝熱管破損及び溶接不良によるトラブル、86年に起こった熱応力による仏のフェニックス炉(250MWe)での低サイクル熱疲労が原因の漏洩事故、英のPFR250Mwe)の多数管リーク事故などが顕著な例です。これらのトラブル経験は以後の設計に十分に反映されています。仏のフェニックス炉で原因不明の反応度低下を4回ほど経験しておりまだ解決を見ていませんが日本の「常陽」などの経験ではそのようなことはありません。また、ナトリウムを用いるための初歩的な小トラブルは研究開発段階でかなりの例がありますが、発電設備としての設計では、これらの経験が十分に反映されて計測技術をも含めて十分な対策がとられています。「もんじゅ」の二次冷却系で生じた熱電対さや管の折損によるナトリウム漏洩事故は日本では重大な関心を持たれていますが、原子炉本体からは構造的にも設計的にも遠い部分での非放射性系統におけるトラブルです。

 

5. 原子炉冷却材としてのナトリウムの特徴

5.1  ナトリウムの金属材料との共存性

 ナトリウムは酸素との親和性が強く、還元反応が激しい特徴があります。酸素の共存下ではフェライト鋼などを腐食させることがありますが、溶存酸素濃度をあるレベル以下に下げた状態で管理するとステンレス鋼などの金属材料との共存性は極めて良好です。開発計画の当初では、隙間腐食などを心配して慎重にことを運んだようですが杞憂にすぎなかったと言われています。ナトリウムの純度管理は高速炉技術の基本です。907月にSuper Phenixで一次系ナトリウムに大量の空気が混入する事故が発生しましたが、カバーガス(アルゴンガス)系の安全重要度の考え方に問題があったようです。すなわち、カバーガス循環系に設備されていたサーキュレーターの品質レベルが原子炉級でなかったため軸のシール部分から空気が漏れこんでカバーガスひいては一次ナトリウムの純度を著しく損なうことになりました。

 しかし、液体金属ナトリウムの高い熱伝導率を配慮した設計が必要になります。ナトリウムを包含する冷却系の機器はナトリウムに接触する面の温度が直ぐナトリウムの温度に追従するため、構造内に大きな温度勾配が生じ、厚肉構造の場合は熱応力が高くなります。ナトリウム温度に変動があると反復熱応力による材料疲労が発生しますので、設計に当たっては薄肉構造を採用する必要があります。

 5.2 ナトリウムの「燃え方」

 前出のようにナトリウムは還元力が大きいので空気中に漏れてくると空中の水分と直ちに反応して酸化します、即ち燃えます。短いオレンジ色の炎を出して白い酸化ナトリウムの煙を吐きながら「チロチロ」と燃えます。ナトリウム冷却炉の場合は、靭性の高いステンレス鋼を用いており、配管の損傷が急速に拡大することは考えられませんので、大量のナトリウムの漏洩が一度に生じる事はありません。一次系の配管・機器を設置する部屋は窒素雰囲気とすることによって高温の漏洩ナトリウムの燃焼を防ぐ対策を採っています。また、非放射性のナトリウムを用いていることから、二次系では配管・機器を設置している部屋はほとんど空気雰囲気としており、漏洩ナトリウムは燃焼します。このとき空気中の湿分量が過大な場合には漏洩ナトリウムと水分の反応による水素が発生しますが、「もんじゅ」二次ナトリウム漏洩事故後に行われた大洗工学センターにおける再現実験によれば、発生水素はナトリウムの燃焼による高温雰囲気中で燃焼してしまい、爆鳴気の問題はありませんでした。金属ナトリウムの白い固まりをプールに投げ込むと、水面に浮いた金属ナトリウムが激しく水と反応してローカルな水素ガスの蓄積が生じて「ポン」と音をたてて爆発しますが、前述のように高温ナトリウムの空気中への漏洩ではそのようなことはありません。ナトリウム冷却炉ではナトリウム系の系統圧力は常圧に近いため、外気との圧力差は小さいので、軽水炉の冷却材漏洩のように減圧沸騰によって冷却材が噴出することはなく、流れ出るという形になり、漏洩速度は大きくはありません。

5.3 ナトリウム・水反応対策

 蒸気発生器は高温のナトリウムの熱を水に伝えて水蒸気を作る装置で、一般には伝熱管内に高圧水を通し蒸発させます。すなわちナトリウムと水が伝熱管の壁を介して接触することになります。この伝熱管壁などが形成する境界が破れると高圧の水又は蒸気がナトリウム側にもれ出て水素ガスを発生する化学反応が生じます。ピンホールのような穴から噴出した水や蒸気とナトリウムが反応するとろうそくの炎のような形の高温領域が伸びて隣接の伝熱管壁を外部から侵食し、そこが破損するとさらにそのような現象が隣接の他の伝熱管におよび破損が伝播する恐れがあります。伝熱管の破断が生じると噴出した水とナトリウムの激しい反応によって生ずる水素ガスによる膨張圧力が生じます。

 これらの対策のために、発生水素などによる圧力蓄積を逃がすための破裂板が蒸気発生器本体の圧力境界の要所に設けられており反応生成物を収納容器に放出できるようになっています。またナトリウム側に水素ガスを検出する高感度の漏洩検出計が設置されており、できるだけ早期にナトリウム側への水や水蒸気のリークを検知するように対策しています。

 5.4 ナトリウムの良いところ

 金属ナトリウムの良いところは流動特性が水に近いことです。水を用いた流動試験によって機器の性能をかなりのところまで模擬することができます。液体金属ナトリウムの比重は水とそれほど変わらないため、循環のための動力も水の場合と大きくは変わりません。

 大気圧下でのナトリウムの融点は98℃、沸点は約880℃と原子炉の運転に使用する範囲を十分にカバーしています。従って、原子炉から出てくる冷却材温度を高温にするために軽水炉のように系統内を加圧して冷却材の沸点を上昇させる必要がないことから、特に圧力制御に気を配る必要が無く運転管理が容易です。また、配管の大きな破損時に減圧沸騰によって冷却材が一挙に喪失することがないので、軽水炉のような非常用炉心冷却装置を要しないという利点もあります。

 一次系に限って述べると、軽水炉でも一次系の水を簡単に処分することはできないのであり、閉じこめて使うことにおいてはナトリウムでも水でも同じようなものです。

 水と異なり透明でない点が難点ですが、超音波応用等の透視技術が利用できます。

 

6.      安全設計上の配慮

6.1 反応度バランスと反応度制御(3)

 核分裂によって発生する中性子の殆どは10-7秒という短い寿命の即発中性子ですが、すべての中性子がこのように短い寿命であれば原子炉の制御は不可能です。中性子の中には極わずかですが遅れて発生してくるものがあり遅発中性子と呼んでおりますが、この遅発中性子の存在のおかげで原子炉の制御が可能になったのです。核分裂反応により発生する中性子のうち、遅れて発生する中性子の割合を実効遅発中性子割合(β)と呼び、軽水炉の場合(熱中性子によるウラン235の分裂による)で0.64%、一般の高速炉の場合(高速中性子によるプルトニウム239の分裂による)で0.21%です。βの値は高速炉の方が軽水炉の約1/3であるため、下記に見るように高速炉のほうが小さな反応度投入で即発臨界になるように見えますが、実はそうではないのです。すなわち、運転中の炉心の中性子数の変化の比率を反応度と呼んでおり、制御棒の操作や温度の変化、気泡の発生などにより変動します(定常運転中は反応度はゼロです)。軽水炉の場合は速度の遅い熱中性子により運転されますので、中性子が炉心を構成する材料や制御棒の制御材(ボロンなど)と衝突反応する確率が大きく、反応度の変化は高速炉に比べて大きくなります。一方高速炉では中性子の速度が速いので物質との相互作用が軽水炉に比べて起こりにくく、反応度の変化が比較的小さくなります。したがって、制御棒を動かした時など高速炉の方が反応度の入り方が少なく安定した運転を可能にしています。

 擾乱として反応度ρが入った瞬間の原子炉の出力をφとすると、それから時間t後の、遅発中性子の作用を無視した原子炉の出力は

 

φ=φEXP(ke(ρ−β)t/l

          (ここで、keは中性子の実効増倍係数、lは即発中性子寿命です)

 

で表されます。ρが負の場合や、正でもβより小さい場合は、その擾乱は時間とともに収束します。反応度ρがβに等しい場合の反応度を1ドルと呼んでいますが、1ドルの反応度を即発臨界と呼び、即発臨界以上の反応度が入らないように原子炉は設計されています。と同時に原子炉の核設計では、運転制御が楽にできるようにρのバランスを計画します。

 「もんじゅ」の場合βの値は0.34%~0.38%であり、反応度係数は、温度係数として

燃料温度係数:−(3.3~3.9x106Δk/k/℃、

炉心支持板温度係数:−(10~12x106Δk/k/℃、

構造材温度係数:+(0.6~1.0x106Δk/k/℃、

冷却材温度係数:+(0.1~1.4x106Δk/k/

となっており、温度係数の正のものは負のものより一桁小さく温度上昇については安定した運転が保証されています。また出力上昇に対しては

ドップラ係数:−(5.7~7.6x103T dk/dT

出力係数:−(0.0067~0.0079(Δk/k)/(Δp/p)

と十分な負の反応度係数になっており、出力の過度変化に対する制御性には問題はありません。この出力係数は下記の軽水炉の例に比べると一桁小さい値ですが、βの値が約半分であるためオーダ的に十分な制御機能を持っていることになります。

 軽水炉の場合は大きな負の出力係数(柏崎刈羽3号機の例では、第一サイクル初期で約−0.050(Δk/k/(Δp/p)、末期で約−0.043(Δk/k/(Δp/p))とボイド係数を特徴としており、細かな温度係数はほとんど問題になりません。なお、高速炉の場合はボイド係数が正であるため(「もんじゅ」の1炉心燃料集合体最大ボイド反応度:+(1.1~1.5x104Δk/k)ナトリウム沸騰が生じないようにする必要があります。常圧でのナトリウムの沸点は約880℃であり運転時のナトリウム温度との間には十分な余裕を持たせています。「もんじゅ」における安全解析によれば、炉心のナトリウムは運転時の異常な過渡変化時及び事故時のいずれにおいても沸騰しないことが確認されています。

 反応度制御については軽水炉(PWRBWR)同様、中性子吸収体による制御棒を用いていますが、BWRの流量制御やPWRで用いている化学物質による反応度調節、液体ポイゾンによる後備停止機能などは利用していません。「もんじゅ」の場合はすべて制御棒によっており、原子炉停止系は反応度制御機能と緊急炉停止機能を兼ね備えた主炉停止系と、緊急炉停止機能のみを備えた後備炉停止系の独立2系統(多重性と称しています)で構成されています。これらはそれぞれ作動機構、制御棒の加速機構などについて異なる設計・加速方式を採用(多様性と称しています)して緊急停止の信頼性を高めています。

6.2 高所水平引き回し配管とガードベッセル

 「もんじゅ」では、一次冷却系に漏洩事故が生じても炉心がナトリウム液面から露出せず炉心冷却が確保されるように、原子炉容器、中間熱交換機、一次冷却系ポンプはガードベッセルと称する独立した「風呂桶」様の漏れ止め容器に入っており、かつそれらの機器間を繋ぐ配管はガードベッセル以上のレベルで水平に引き回されています。ガードベッセルの容積は炉心が裸にならないよう十分に小さくなるように設計されており、一次系に損傷が生じても炉心はガードベッセルに生じた液面以下に保持されるようになっております。また、ガードベッセルはナトリウムを保持した状態の荷重に十分耐えられるよう支持されており、一次冷却系漏洩事故時にガードベッセルが壊れることを懸念する必要はありません。したがって、ナトリウム冷却炉では冷却材喪失事故を想定する必要はありません。

6.3 耐震安全性(4)

 「もんじゅ」を例にとると、耐震設計は軽水炉同様、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について」を参考にし、耐震設計上の重要度分類は液体金属冷却高速増殖炉の設計の特徴を十分踏まえて行うよう要求されています。即ち、機器・施設の耐震重要度によって決められた設計基準地震力に十分の余裕をもって耐えるよう設計されています。

 機器・配管の設計に当たっては、ナトリウム系は軽水炉と異なり低圧、薄肉、高温構造の特徴を考慮する必要があります。また、系統機器の耐震重要度分類では、火災防止の観点からナトリウムについて特別な考慮を払うことにしています。また、軽水炉には存在しない二次主冷却(ナトリウム)系、アルゴンガス系等ナトリウム冷却炉特有の系統・機器があり、それらの重要度を適切に弁別分類しています。軽水炉と同様に主要な系統はAクラス、補助系はBクラス、その他はCクラスとし、Aクラスの中で特に重要度の高いもの(原子炉冷却材バウンダリー、制御棒&制御棒駆動機構等)はAsクラスに分類して設計対応しています。

 ナトリウム系は低圧・薄肉構造であることから系統・機器の剛性が低いため、座屈防止の制限を設けると共に、支持構造の設計は入念に行われています。また、高温であることから熱膨張対策を含め、クリープ、熱応力に十分配慮した設計を行っています。

 尚、設計地震動については、考慮すべき最強地震(S1地震)として10個の歴史地震と柳ヶ瀬断層による地震を、限界地震(S2地震)として七つの活断層による地震、地震地帯構造による地震及び直下地震を、サイトの特性を考慮して選定ないし考慮しています。

 「もんじゅ」の耐震設計はこのように、サイト地盤の地震特性と系統・機器の構造上の特徴を踏まえ、軽水炉と同様に十分な余裕を見込んだ手法によって行われており、軽水炉と同等の耐震安全性を有しています。

6.4 仮想的炉心崩壊事故(HCDA(1),(3)

 「もんじゅ」では原子炉停止系、安全保護系の高い信頼性と工学的安全設備の設置によって炉心の大きな損傷に至る可能性のある事象(事故より発生頻度が低く、重大な結果が予想される事象で、(5)項事象と呼ばれています)の発生は本来考えられませんが、これまでに蓄積された高速炉の運転経験が少ないことから施設の安全余裕を確認するために敢えて検討することが原子力安全委員会が決定した「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」で要求されています。原子炉の安全審査において「運転時の異常な過渡変化」と「事故」の解析結果についての審査が行われますが、この「(5)項事象」は発生頻度の点でこれらよりさらに起こり難い事象と判断されており、軽水炉では原子炉設置者が自主的に解析・評価している「シビアアクシデント」の範疇に入るもので、許認可段階での評価は義務付けられていないものです。

「もんじゅ」ではもっとも厳しい結果をあたえるHCDAとして定格出力運転中に炉心の流量が止まり,且つ原子炉の運転停止機能が喪失する場合を取り上げて解析評価しております。3台ある一次冷却系ポンプがすべて停止し、制御棒が挿入されないという発生確率が極めて小さいと考えられる仮想的な事象です。燃料の温度が上昇しナトリウムの沸点に至るとナトリウムの沸騰が生じ、正のボイド反応度係数によって即発臨界事故に発展します。この時発生する機械的エネルギーを380メガジュール(最近の進歩した計算方法によると三分の一以下になるそうです)と評価しています。炉心が崩壊し燃料が炉心外に放出されると反応は停止します。原子炉容器の強度は500メガジュールの機械的エネルギーに耐えられるように造られていますので、原子炉系外に放射能災害をもたらすには至らないと結論付けられています。

 

7. 経済性とブレークスルー技術

 ナトリウム冷却炉は一次ナトリウムが放射化するので水蒸気系との間に二次ナトリウム系を設けて両者の絶縁を計っています。そのためもあり、従来の設計では軽水炉システムに比べて物量が大きくなります。従来検討されている原子炉システムは「常陽」「もんじゅ」のようなループ型とEBR-IIPhenixのようなタンク型が主流になっています。中間ループである二次ナトリウム系を除外する合理化案も考えられますが、蒸気発生器の信頼性がメンテナンスフリーで行ける程度に高度化すれば可能性があるように思われます。

タンク型とループ型の比較では一次系機器を一つのタンクに収納し、一次系配管を省いたタンク型の方がコンパクト化の点、物量の少ない点で合理的な設計のように思われます。従来言われていたタンク型に対する懸念の一つが耐震性ですが、評価した結果(大掛かりなスロッシングの試験が電力中央研究所において実施されました)では、ループ型/タンク型とも設計的に十分成立し大差ないとの結論に至っております。冷却材の圧力が低い高速増殖炉では、配管、機器が薄肉なので、一般には、地震時の荷重を低減した場合の経済的なメリットは軽水炉より大きいと思われます。既に通常の高層建築にも適用されている建屋免震基礎の採用が原子力発電所でも適用可能となれば、高速炉の経済性は更に改善できる可能性があります。

また、燃料材料、配管材料などの材料開発の成果もブレークスルー技術として大いに期待されるものです。

核燃料サイクル開発機構では平成117月から「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」を実施しており、現在その「フェーズII」の中間報告がまとめられています。その中で、合体機器の採用や主配管材料としての12Cr鋼採用などによるナトリウム冷却炉の設計合理化、機器配置のコンパクト化など、経済性改善の試みが検討されています。

 「もんじゅ」の建設費がかなり高額であったとの批判があり、高速増殖炉の実用化を懸念する材料として利用されていますが、日本にとって最初の動力用原型炉であり、材料選定、設計、検査、運転の総てにわたって慎重に、「人手」をかけてことを運んだ故でしょう。どうすれば「安くなる」かについては研究開発段階から手塩に掛けてこられた核燃料サイクル開発機構(旧動力炉・核燃料開発事業団)及びメーカーの関係者にノウハウが蓄積されていると思います。

 

8.      おわりに

 核燃料サイクルの是非論が盛んに交わされ、折角試運転にこぎ着けた六ヶ所再処理工場の廃止論まで飛び出しました。それは、プルサーマル止まりの中途半端なサイクル計画を余儀なくされている現在の日本の事情によるものです。長期的なエネルギー安全保障の問題はエネルギー自給率4%の日本にとっての最重要課題であり、その解決の鍵としては、ウランの利用効率をワンススルー方式の約60倍にすることができる増殖炉によるプルトニウム生産と利用が実現可能性の高い選択のひとつです。原子力による中国のエネルギー開発の最近の急進ぶりを見ると、ウラン調達問題に限っても、日本は安閑としてはおれないのではないかと思います。中国では高速増殖実験炉の竣工を目前にしていることが伝えられ、またインドのFBR原型炉が一昨年着工の運びになりました。日本でも「もんじゅ」を速やかに再開し、実証炉の、あるいは実用炉をにらんだ建設計画を早く目に見える形で立ち上げる必要があるように思います。

 本稿の執筆にあたっては、元核燃料サイクル開発機構の山下英俊氏、元動力炉・核燃料開発事業団の堀雅夫氏、和泉啓氏および株式会社日立製作所の柴田洋二氏から貴重な資料や御指導を頂戴しました。また、エネルギー問題に発言する会の天野牧男氏(元石川島播磨重工業株式会社副社長)からご懇篤なご指導を頂きました。謹んで謝意を表します。

 

9.参考文献

1)「もんじゅ」の設計 1.安全設計、動燃技報No.511994.9185

2)例えば、原子力百科事典 ATOMICA など

3)「もんじゅ」の原子炉設置許可申請書 添付書類

4)高速増殖炉もんじゅ発電所の耐震設計について、動燃技報No.421982.6160

 

        表1. 各国の主要高速増殖炉一覧(*)

炉型;L:ループ型、T:タンク型       (*)原子力ポケットブック2003年版、日本原子力産業会議 他

国 名

プラント名

出力(炉型)

目 的

着工

初臨界

 

備  考

 

 

米国

Clementine

25kWt(L)

実験炉

 

‘46

閉鎖

 

EBR-I

0.2MWt(L)

実験炉

‘46

‘51

閉鎖

 

EBR-II

20MWe(T)

実験炉

‘58

‘61

閉鎖

‘94まで稼働

E.Fermi

61MWe(L)

実験炉

‘56

‘63

閉鎖

‘72まで稼働

FFTF

400MWt(L)

実験炉

‘70

‘80

閉鎖

‘93まで稼働

PRISM

155MWe(T)

実証炉

計画中止

 

 

英国

DFR

15MWe(L)

実験炉

‘54

‘59

閉鎖

 

PFR

250MWe(T)

原型炉

‘66

‘74

閉鎖

 

CDFR

1500MWe(T)

実証炉

EFRへ統合

 

 

仏国

Rapsodie

40MWt(L)

実験炉

‘62

‘67

閉鎖

‘83まで稼働

Phenix

250MWe(T)

原型炉

‘68

‘73

閉鎖決定

‘05まで稼働

SuperPhenix

1240MWe(T)

実証炉

‘76

‘85

廃止

‘98まで稼働

 

露国

BOR-60

12MWt(L)

実験炉

‘64

‘68

運転中

 

BN-600

600MWe(T)

原型炉

‘67

‘80

運転中

 

BN-800

800MWe(T)

実証炉

‘87

建設中

 

カザフスタン

BN-350

150MWe(L)

原型炉

‘64

‘72

廃止

‘05まで稼働

 

独国

KNK-II

20MWe(L)

実験炉

‘75

‘77

閉鎖

‘91まで稼働

SNR-300

327MWe(L)

原型炉

‘73

中止

 

SNR-2

1500MWe(T)

実証炉

EFRへ統合

 

欧州

EFR

1520MWe(T)

実証炉

設計中

 

インド

FBTR

15MWe(L)

実験炉

‘72

‘85

運転中

 

PFBR

500MWe(L)

原型炉

‘04

建設中

‘11年完成予定

中国

CEFR

25MWe(T)

実験炉

‘00

‘05

建設中

 

日本

常陽

140MWt(L)

実験炉

‘70

‘77

運転中

 

もんじゅ

280MWe(L)

原型炉

‘85

‘94

改造中

‘06年計画再開

 

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