柏崎刈羽原子力発電所の地震影響について

朝日新聞の報道はこれでよいのか

原子力・エネルギー勉強会 会長   村主 進

 平成19716日午前1013分頃新潟県中越沖地震が起こった。柏崎市で死者10人、重軽傷者1,339人、建物全壊2,053棟、大規模半壊260棟、半壊1,804棟、一部損壊20,989棟の被害があった(柏崎市まとめ)。停電や断水などライフラインも断絶した。商工業施設の損害も莫大なものであった。

 一方、
朝日新聞は、原子力発電所で想定外の地震動があり、少量の放射性物質が漏れたとか、屋外の変圧器の火災で防火体制が不備であるとか報道するとともに、想定外の地震動があったことで原子力発電所の安全性に不安があるかのような記事が目立つ。

 しかし運転中の原子力発電所が安全に停止し、崩壊熱も除去され、原子炉の安全上の問題はなかったことには触れていない。

 事実は、地震時に運転していた原子力発電所は3、4、7号機で、2号機は起動操作をしていたが、地震によってこれ等の原子炉は自動停止し、崩壊熱は支障なく除去し、炉心の放射能は外部に放出されていない。定検で停止中の原子炉1,5,6号機も問題はない。周辺公衆の安全と健康に何ら影響を及ぼしてはいない。したがって想定外の地震動にもかかわらず原子炉の安全に関しては何ら問題を生じていない。

 原子力発電所の安全確保対策は@原子炉に対する安全確保(AsおよびAクラスの構造物および設備に対する安全確保)と、A一般の産業施設と同じクラスのものに対する安全確保(Cクラスの構造物および設備に対する安全確保)と、Bその中間の重要度を持つ施設に対する安全確保(Bクラスの構造物および設備に対する安全確保)とに分けられる。(旧耐震設計審査指針のクラス分けを用いる。)

 何ゆえ上記3クラスの重要度に分けて安全対策を行っているのか。これは原子炉に対する安全性確保を一層確実にするために、人間工学的見地に基づいて行っているものであるが、これに関する説明はここでは省略する。

 原子力発電所の安全を保障するものは、原子炉を「止める機能」、「冷やす機能」および「閉じ込める機能」を失わないことである。

AsおよびAクラスの構造物および設備とは、原子炉およびこれを構成する構造物および設備と原子炉の緊急停止系、原子炉の崩壊熱除去系、非常用炉心冷却系および原子炉格納容器などである。また使用済み燃料を貯留する設備もAsクラスに属する。AsおよびAクラスの構造物および設備は、炉心に閉じ込められている放射性物質の放散を防ぎ、周辺の公衆の安全と健康を守るものであるので、十分な安全余裕を持って設計されている。

マスメディアは今回の新潟県中越沖地震が、原子力発電所の設計地震動を遥かに越えた地震であったことに重点を置き、殆ど連日原子力発電所の耐震に関して報道をしている。しかし、その報道は断層の想定の甘さや、発電所における地震動が想定を大きく超えることばかりである。

しかし耐震の安全性は、適切に設定された設計地震動と共に、建物および設備の耐震設計によって決まるものである。AsおよびAクラスに属する構造物および設備の耐震設計では十分な余裕を持って設計されている。設計の余裕の大きいことは原子力発電技術機構の多度津工学試験所の大型振動台で実験的にも確認されており、また設計の安全余裕が定量的に明らかにされたものもある。

したがって想定外の地震があっても、余裕のある設計によって運転中の原子炉の「止める」「冷やす」「閉じ込める」という安全機能が全うされている。

多少詳しく説明すれば、柏崎・刈羽原子力発電所では運転中の原子炉は、「止める」では地震に応答して余裕を持って自動停止した。通常の自動停止系の作動が失敗したときに備えて設置されているバックアップ自動停止系およびボロン注入系はその作動の必要はなかった。

「冷やす」では余熱除去系が作動し、崩壊熱は十分の余裕を持って除去された。そして非常用炉心冷却系(ECCS)の作動は勿論必要がなかった。

「閉じ込める」ための原子炉格納容器も働く必要がなかった。

 なお東電のホームページの「新潟県中越沖地震発生による柏崎刈羽原子力発電所の主なプラント状況」を見ると、機器の異常・故障は殆どCクラスの構造物および設備に関するものであって、AsおよびAクラスの機器は見当たらない。

このように今回の想定外の地震では原子炉の安全性を脅かすものではないことはお分かりいただけたと思う。但し安全であったから設計で考慮する地震動の再検討をする必要がないと主張するものではない。

今回の想定外の地震動があったことを踏まえ、設計地震動を再検討をすることは勿論必要であるが、原子炉の安全性は、適切な地震動の設定だけでなく適切な安全余裕を持つ耐震設計によるものであることを認識して貰いたい。

なお放射能の放出に関しては、7号機の主排気筒より少量のヨウ素および粒子状放射性物質が放出された。また6号機より少量のクロムおよびコバルトが放出された。しかしこれ等はいずれも微量であって公衆の線量限度に比べると無視できるようなものである。健康上の影響は勿論ない。またこの微量の漏洩はAsおよびAクラスの構造物および設備に関するものでもない。すなわち多量の放射能の放出をもたらすおそれのあるものではない。

 屋外変圧器の火災も大きく報道されたが、これはCクラスの機器である。原子炉の安全上重要な設備ではない。

柏崎刈羽原子力発電所の地震影響について朝日新聞の報道はこれでよいのか疑問に思う。原子力発電所に関する地震情報を提供するのであれば、先ず原子炉が安全かどうかを間違いなく正確に報道することが重要なのではないだろうか。情報を選択して、読者が興味を持つようなものばかり報道するのは、正しい報道にならないであろう。

同時に、柏崎・刈羽地区の住民の方には、新潟県中越沖地震に関して柏崎刈羽原子力発電所の安全について心配する必要はないことをお伝えしたい。

(平成198月8日 記)