原子力発電の安全とマスコミ報道

原子力・エネルギー勉強会 会長
村主 進

1.はじめに

 9月1日のNHKスペシャル「想定外の揺れが原発を襲った」に意見を述べる。先ず、この内容を見ると番組の作成・編集スタッフは原子炉の安全について間違って理解しているのであろうか。若しくは出来事の事件性のみの報道を志向しているのだろうか。

 本来マスメディアは真実を報道するのが役目である。出来事の一部である事件性の記事のみを報道するだけでは真実を報道することにはならない。事実の全体像を報道しなければ、真実を報道したことにはならない。

 ましてスペシャルはニュースではない。事態の推移で、失敗した面も成功した面も平等に取り上げ、しかも重要性の軽重にしたがって報道する義務がある。

 視聴者がドラマとして視ているだけならば問題はないが、このような番組を基に、国民が原子力発電の必要性とか安全性に関して間違った見解を得るとすれば問題である。

 NHKなどの一部のマスメディアではあろうが、事件性のみを取り上げた記事の報道をして、それによって視聴率を上げようとする態度は肯定できない。そこでNHKスペシャルを取り上げ、先に執筆した一連の朝日新聞報道とともに、マスメディア報道のあり方をを批判するものである。

2.NHKスペシャル報道

 NHKスペシャル「予想外の揺れが原発を襲った」の放映内容の概要は次のとおりである。

@柏崎刈羽原子力発電所を直撃した大きな揺れは万全だった筈の原発の安全と安心を揺るがすものであった。
Aもしこのような地震が起これば大惨事につながりかねない。
B3号機の屋外変圧器の火災があり、黒い煙が立ち上るのを見た住民には不安が広がり、発電所職員は消火にお手上げだった。
C放射線モニターの情報が停電などの地震の影響で地方自治体に届かず、また東電からの情報が遅かったので、地方自治体は不安を募らせ、新潟県知事は一時住民退避を考えたこともある。
D6号機では管理区域外に放射能を帯びた水が流れた。
E発電所内で色々なトラブルがあり、東電職員が多忙を極めた。
F阪神淡路地震以降は地震の研究が進み、この結果は柏崎刈羽原子力発電所の活断層の見直しを迫るものであった。
G浜岡原子力発電所では中央防災会議の指針で、中部電力は耐震性を見直し耐震性を高める工事をした。
H柏崎刈羽原子力発電所では7つの原発が止まったままで、原子炉内部についてはこれから検査する。
I原発の安全性をどう考えて行くのか重たい課題を突きつけている。

 この内容は先に指摘した一連の朝日新聞の記事の筋書きと殆ど異ならない。

 そこで、一連の朝日新聞の報道に対して指摘したことと同じことになるが、NHKに対しても同様のことを指摘したい。すなわち

@設計地震動を大幅に超えた地震に遭遇した。それでも原子炉は確実に停止し、崩壊熱は十分の余裕を持って除去され、放射能閉じ込め機能を持つ原子炉格納容器は働く必要がなかった。
 
 すなわち基本的な原子炉の安全機能は確保されたいる。そして、これが原子炉の安全確保に本質的で重要な要件である。それにも拘わらずこのことは放映されていない。

A安全性確保に必要性がない屋外変圧器の火災や、放射線被ばくが無視できるくらいに少ない放射能漏れなどは大きく放映されている。

 しかし、これ等は周辺住民の健康と安全に関係ない。

B耐震の安全性は、適切に設定された地震動とともに、建物・設備の耐震設計によって決まるものである。
 
 それにも拘わらず、設計地震動を大幅に超えた地震に関することのみを放映して、建物・設備が十分な安全余裕を持って設計されていることには全然触れていない。

 以上の指摘のとおり、NHKは事件性のみの放映に終始し、聴視者に事態の全貌を報道したことにはならない。真実を報道したことにはならないものである。

3.原子炉事故の大惨事について

 次にNHKが「もしこのようなことが起これば大惨事になりかねない。」と放映しているが、この点についても触れたい。

 NHKは勿論その他のマスメディアもチェルノブイリ事故によって、旧ソ連3国の国民にどのような健康影響があったことは十分に知っているはずである。

 というのは、2005年9月にIAEAおよびWHOが纏めたチェルノブイリ・フォーラム報告書が発表され、9月6日以降各紙で大々的に報告された。これについては読者も記憶されていることと思う。

 しかしここでも殆どのマスメディアは事件報道志向の報道により真実の報道をしていないので、国民には内容が正しく伝わっていない。

 チェルノブイリ事故による公衆の健康影響についてはIAEA、WHOのチェルノブイリ・フォーラム報告書に基づいて纏められた「チェルノブイリ事故ではどのような健康被害があったのでしょうか」を見てもらいたい。これを見れば、健康被害は

@汚染除去作業者、30km圏よりの退避者および特別管理区域の住民(住民の要望で高汚染区域に居住している住民)の集団の合計、約60万人の集団に対して生涯の95年間に亘るガン死亡者は約4,000人と予想される。

Aこれは、毎年発生している自然発生のガンの統計的変動のために、チェルノブイリ事故によるガンの発生は検出されていない程度のものである。

というものである。

これは聴視者が考えているいわゆる大惨事とは異なるものであろう。

NHKが内容を示さないで大惨事と表現し、いわゆる常識的な大惨事と思わすような表現は誠に遺憾である。

4.まとめ

 マスメディアはすべてNHKや朝日新聞と同様な報道姿勢ではないとは考えるが、NHKスペシャルの放映に基づいてマスメディアの報道姿勢に言及した。

 本来マスメディアは事実を正しく報道し、間違った印象を読者、視聴者に与えてはならない。しかしNHKや朝日新聞の放映や記事に見るように、その情報が現実に手を加えられ、送り手の観点から捉えた情報であることが多い。

 マスメディアの報道が送り手の観点から捉えた情報であるならば、読者、視聴者はその内容をよく吟味し、マスメディア以外の情報も手に入れてこれをよく吟味することによって、物事を正しく把握しなければならない。(参考文献参照のこと)

 従ってメディア・リテラシーが現実に必要となる。メディア・リテラシーとは「読者、視聴者が、新聞やテレビ放送の内容を正しく読み取り、自分で判断する力」を云う。国民の一人ひとりがメディア・リテラシーの重要性を認識し、メディア・リテラシーの目でもってマスメディア情報を正しく理解する必要がある。

 また一方、マスメディアも透明性を高め、正しい報道に心がけてもらいたい。マスメディアがその職責を果たすには、真実の報道は欠かせないものである。

(平成19年9月12日執筆)