【チェルノブイリ事故の健康被害の低い理由】

チェルノブイリ事故の健康被害は思ったより低いと思います。何ゆえでしょうか。

【回答】
 
 公衆に対する放射線被ばくは外部被ばくと内部被ばくに分けられます。外部被ばくも内部被ばくも放射能の物理的減衰以外に、生態学的効果によって放射線被ばくが年々減少しています。
健康被害が思ったより低いのは生態学的効果による被ばくの低下が著しいからであります。

1.放射能の物理的半減期の効果

 事故によって環境に放出された放射能は半減期の短いものが多く、事故後急激に放射能は減衰しました。短半減期のものが減衰した後は134Cs(半減期約2年)および137Cs(半減期約30年)の寄与が大きくなりました。この数十年は137Cs、ついで90Sr(半減期約30年)が重要核種となリます。

2.生態学的効果の外部被ばくに及ぼす影響

@発電所近傍にいた住民に対する放射能雲による被ばくは、雲の通過したときのみであります。

A土壌表面に降り落ちた放射能は降雨によって土壌中に移行します。その結果表面土壌の放射線遮蔽効果によって外部線量率は減衰しました。

B屋根や舗装道路に降り落ちた放射能は雨水に洗い落とされ、洗い落とした水の中の放射能は排水溝中の汚泥と結合して不溶性となります。放射能が洗い落とされた分だけ外部線量率は減衰しました。

C都市部では表土を剥ぎ取り汚染除去をしました。但し全地域ではなくコスト・ベネフィット効果を考慮して、限られた地域の汚染除去を行いました。

D農地では耕作を行いますので、その結果として耕土はかき混ぜられ土壌の遮蔽効果により外具線量率が著しく低下しました。

3.生態学的効果の内部被ばくに及ぼす影響

@セシウムは土壌物質と結合して不溶性となります。粘土質の土壌、有機物含量の少ない土壌では、セシウムが土壌物質と強く結合して不溶性になる割合が大きくなります。

A土壌中の可溶性セシウムはすべてが植物に移行するわけではありません。そして土壌が十分に施肥された状態では、カリウムやアンモニウムがセシウムと強く競合して、セシウムが根に吸収される割合が低くなります。

Bストロンチウムについてもセシウムと同様に、土壌および植物の生態学的効果があります。

C汚染された牧草で飼育された家畜は、出荷前の適当な期間、汚染のない飼料で飼育して家畜体内の放射能を除去して出荷します。

D家畜の飼料にセシウム結合剤を混ぜて飼育して、セシウムの胃への吸収を阻害します。それにより家畜の放射能蓄積量を抑制しています。

E制限基準を越えた食品の摂取を禁止して、内部被ばくを抑えています。

4.以上の生態学的効果によって、物理的半減期による減衰以上に、公衆の放射線被ばくは著しく減少します。この効果によって、生涯(95年間)の被ばく線量の合計は著しく少なくなります。これが一般に思っていたより健康被害が低くなる原因であります。

参考文献:IAEA&WHO:Environmental Consequences of the Chernobyl Accident and Their Remediation:Twenty Years of Experience(August 2005)